嘘吐き


毎回の話だけど

その切先から流れて落ちる赤い鮮血が

今宵は一層赤くなっていて

この人が鬼って言われるわけが分かった気がした。

でも自分もその鬼に憧れがあるって事は分かってた。


「土方さん」

鬼の正体、土方副局長。

部屋に入る前に一声入れないと中に入れてくれないし

お茶は熱くないといけないし

問答無用に人を狩る

見たまま、聞いたままの鬼。

「遅かったな」

忙しい人のこと呼んでおいて遅かったな、は矛盾だと思う。

「何用ですか、忙しいんですよ、俺だって」

「どうせ平助や山南と話してるだけだろ」

「そんな訳、ないじゃないですか…」

「図星、まあ座れよ」

確かに図星だった。でも分かっているなら自分で来れば良いのに

「どうして使いを?」

「丁度薬の調合をしていた」

ふっと煙を吐く。

肺を患っている自分にはその煙は憎くて、羨ましかった。

「沖田」

「何ですか?」

「薬は飲んでるか?」

「えぇ、何時も苦くないものをありがとうございます」

「そうか…」

そうかって何?

「土方さん、用はそれだけですか?」

そんな分けないだろうけどいい加減この間がつまらない。

立ち上がって戸に手をかける

「いや、違う」

向けていた背から土方さんが何かを出している音がする。

「何してるんですか?」

振り向くと丁度箱らしき何かを出し終えていたようで

箱の前をとんとんと手で叩く。座れと。

「沖田、開けてみろ」

紐を解いて上蓋を開けると白い袋。

「何ですか、これ」

「京から買った、飲んでみろ」

薬だった。

どうしてこの人は他人の病気に気を使うのだろう

「どうして…」

「お前が新選組から早くに消えられたらこっちが困るからだ」

ぶっきらぼうに言って、背を向ける。

前から変わってないな、ここは。

もしかしたらこの人にある憧れはこの人の他人への愛情の深さが羨ましいからかもしれない。

自分を犠牲にする。吉村さん並だ。

「ありがとうございます、大切にさせてもらいますね」

箱を元に戻して部屋に持って帰ろうとすると

「沖田」

呼び止められたのではい、と返事をする

「近藤さんも裏切るなよ、俺だけの金じゃないんだからな」

「はいはい」

嘘吐き

自分のこういうところが嫌いだ。



「トシ、なんだその箱は」

「近藤さん…」

雨がしとしと庭に降り注いでいる。

二人は黒い紋付袴を着こんで縁側にいた。

「沖田の部屋から見つかったんです」

紐があれから触った気配がない

ほこりも被らず、あのままの重さの薬箱。

「あいつ、俺に最後に嘘ついていきやがった…」

「…そうか、そう言うのは新選組にはそう居ないからな」

「そう…ですね……」

天を仰ぐ土方の頬を伝う涙が薬箱をぬらした


雨が過ぎて、土方はそのままの格好で院内庭にいた。

「沖田、強制的にでもお前のところに送ってやるぞ」

火の強い焚火に薬箱を投げ入れる

箱は空しく火で焼け、灰が中を舞う

少しして、土方が懐から手紙を出す

字は沖田のものだった

「ここで謝られても困るんだがな」


土方さんへ
嘘ついてごめんなさい
俺は貰った薬を一口も口に入れないまま新選組の領内か外で命を落としているでしょうね
でも怒らないで下さい
俺は薬が嫌で飲まなかったんじゃありません
土方さんから貰った大切なものだから早くに無くしたくない
そう思って手を付けませんでした
もし生きている俺がまだそこにいるのなら殴っても良いですし
解釈も受けます
でももしそこに俺が居ないなら是非それは売ってお金にするか、だれか同じ肺結核の患者さんに譲ってください
一生のお願いだったら怒るかな
でも土方さんなら分かってくれるよね
                             新選組第一隊隊長 沖田総司


「俺なら分かるだって…?」

分かっているならお前に無理にでも薬を飲ませていたさ

手紙を持つ手に力が入る。

刹那、手紙が土方の手から離れ、火に当って灰になった










この辺でまだキレイなうちに終了ー


戯言       2004/06/04    佐藤
タイトルにもあるように、壬生義士伝で新選組大フィーバーなので
のりで書いたらこうなりました。
ちなみに新選組・ピスメ・銀魂どれと言うわけではありません。
なので見た人が勝手になにかに当てはめてくれて結構です。
でもこんな優しいのかな、本物って…